Watt

Apr 4

→彼の言うことには一理あった。この惑星は工業生産によって破壊される一方で、しかもなにが生産されているかといえば、たいていはくだらないものなのだ。
 そこで、トラウトも一理あることをいった。「そうさな、わしも前には自然保護主義者だった。人間がヘリコプターから自動散弾銃でハクトウワシを撃ったりするのを見ると、おいおい泣きたくなったもんさ。いまじゃ諦めた。クリーヴランドには、すっかり汚染されちまって年に一度ぐらい火事を出す川がある。前はそれを考えるとむかついたが、今は笑いたくなるよ。どこかでタンカー事故があって、油が海に流れ出し、何百万もの鳥と何億もの魚が死ぬたびに、わしはこういうんだ。”それ行け、スタンダード石油”それとも、どこでもいい、その油をぶちまけた会社にね」トラウトは両手を上げてばんざいをした。「”やったぜ、モービル石油”」
 運転手はこれを聞いてうろたえた。「冗談だろう」
「わしはさとったんだよ」トラウトはいった。「神様はけっして自然保護主義者じゃないんだから、ほかのだれかがそうなることは、不敬だし、時間の無駄でもある、とね。あんたは神様の作った火山や、竜巻や、津波を、これまでに見たことがあるかい? 神様が五十万年おきに準備する氷河時代の話を聞いたことがあるかい? そういえば、ニレの立ち枯れ病はどうだ? あれが自然保護政策だなんていえるかね? それが神様なんだ、人間じゃない。われわれがやっと川をきれいにしたころには、神様はたぶんこの島宇宙ぜんたいをセルロイドのカラーみたいに燃え上がらせるさ。そもそも、ベツレヘムの星はそれだったんだからね」
「ベツレヘムの星はなんだったんだい?」運転手がきいた。
「どこかの島宇宙ぜんたいが、セルロイドのカラーみたいに燃え上がったのさ」トラウトはいった。

→運転手は感銘を受けた。「そういわれてみりゃ、聖書のどこにも自然保護の話は出てこねえやな」
「ノアの洪水の話を勘定に入れなければね」トラウトはいった。

→ふたりはしばらく黙りこんだが、やがて運転手がまた一理あることをいった。彼は、自分のトラックが大気を有毒ガスに変えていることも、この惑星がどんどん舗装道路に変えられていて、自分のトラックがどこへでも行けることも知っている。「だから、おれは自殺をしてるようなもんだ」と。
「気にしなさんな」トラウトはいった。
「おれの弟なんて、もっと悪いぜ」運転手は話をつづけた。「やつの働いてる工場は、ヴェトナムの草や木を枯らす化学薬品を作ってるんだ」ヴェトナムというのは国の名前で、アメリカはそこへ飛行機の上からいろいろのものを落として、その国の人びとが共産主義者になるのを止めようとしている。彼の話に出てきた化学薬品は、ありとあらゆる茂みを枯らして、共産主義者たちが飛行機から身を隠せないようにしてしまおう、という目的で作られたものである。
「気にしなさんな」トラウトはいった。
「長い目で見りゃ、やつも自殺をしているようなもんだ」運転手はいった。「このごろのアメリカ人のありつける働き口ときたら、なにかの方法で自殺をしてるようなもんだって気がするぜ」
「一理あるね」トラウトはいった。

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』(1973)(浅倉久志訳・早川書房)